尾崎雅彦 教授

~ときどき挨拶~

新しい時代(平成30年12月)

柏の葉キャンパスをベースとする新領域創成科学研究科のロゴマークが選定された2010年度に研究科の広報委員長として公募や選定に係る諸用をつとめました。その時に、柏という樹は、新芽が出てから古い葉を落とすことから、代々続け栄えていく縁起物として古来より扱われていることを知りました。

尾崎研究室では、本年9月に開室10周年を迎え、12月1日には和田先生が講師に昇任してこのたび新たに尾崎・和田研究室として活動していくことになりました。卒業生も含めて新しい枝葉が活き活きと伸び広がって、研究室の営みが大樹になっていきますよう、関係の皆様の益々のご支援・ご助力をお願いいたします。(古い葉もまだしばらく頑張りますのでよろしく)

衣替え(平成25年9月)

東京大学に着任して満5年を迎えました。最近、学内でいくつか立場などの変更がありましたので、外の人にはなかなかわかりにくい組織構造の紹介を交えてまとめておきます。

① 私の所属している新領域創成科学研究科は、大学院の区分でいうと工学系研究科とか経済学研究科とかと同じ位置づけにあって、大学院生の所属する研究科としては唯一柏キャンパスを拠点とする若い部局です。工学部や経済学部に相当する「似た名前の学部」がないので、教員や在学する院生のイメージを描きにくいと思いますが、個々には専門があって、それらが多様に混在して複雑なことや新しいことに対しいろいろな形で取り組んでいる、取り組もうとしている、と、大略お考えください。整然とした記述がよろしければ研究科のホームページなどをご覧いただくとよいと思います。

では、学部学生の教育や卒論指導はしていないのかというと、そのようなことはなく、教員はそれぞれの専門に応じて「どこかの」学部の教員を兼務しています。このことは、工学系研究科に所属する教員が工学部の教員を兼務しているということと、基本的に同じなのですが、「似た名前の学部」が「本郷」に「昔からある」という状況が、私たちとは決定的な違いとなって、「基本的に同じ」という(言いたい)理屈の浸透を妨げているように思われます。

それはさておき、私の場合、工学部のシステム創成学科の教員を兼務して、2年生から4年生までの授業や卒論指導を行っています。システム創成学科は、私が在学していた頃には、船舶工学科、資源開発工学科、原子力工学科だったものが、いろいろな変遷の後に一緒になったという、学生総数の比較的多い学科であり、2年生夏時点での進学振り分けの段階からA,B,Cの3コースに分かれています(システム創成学科Aなどと言います)。それぞれのコースが1学年あたり概ね50人くらいなので、ひとつの学科並みですが、3つのコースが昔の学科に対応しているわけではないことに留意が必要です。

長い背景説明になりました。私の立場の変更というお話です。私は本年4月に、AコースからCコースに兼務先が変わりました。Aコースは「環境・エネルギーシステムコース」(略称E&E)、Cコースは「知能社会システムコース」(略称PSI)と名乗っています。名前からも想像できるように、同じ学科内でも違う世界に来た感があります。今のところ過渡的にE&Eの卒論指導などもあるので、PSIでの新しい授業の準備と合わせると、一時的に負荷が増えるのはやむをえません。しかし、学生の演習や卒論の発表会などを通じて、研究への異なるアプローチ(学科内異文化と言ってもよい)に「肌身をもって」触れることで、自身の研究に広がりや彩りが出てくるものと期待しています。

② 私の大学院教育・研究の拠点は、新領域創成科学研究科の海洋技術環境学専攻が本務ですので、柏キャンパスです。教員室は基盤棟の6階。日当たりのよい南向きの窓から、何のさえぎるものもなくキャンパスの樹木や柏の葉公園が見渡せます。学生の研究室は少し離れて同じフロアにあり、これまでに巣立っていった学生諸君との経験にもとづくと、ちょうどよい距離のように感じます。気候の良い季節になると学生諸君はキャンパス内のあちこちでテニスやサッカーに親しみ、明るく静かな図書館で気分を変えて勉学にいそしむ感心な学生もいます。

一方、上述したように、工学部を兼務していますので、本郷キャンパスにも教員室をもらっています。弥生門から入ると正面に見える工学部3号館という建物の3階にあります。実は、この3号館はここしばらくスクラップ&ビルドで建て直し中だったのですが、まさに今月(平成25年9月)完成し、2年半ほど退避していた13号館から引っ越しました。外観は旧3号館の再現を図った煉瓦仕様。窓も枠が縦横に入ってガラス面積が小分けされた縦長のもので、以前のイメージを損なっていません。平面形状が五角形で中空というのも従来通りです(迷子になりやすいです)が、地下1階、地上9階なので建物全体としてはボリュームアップです。ただし、各教員の部屋は以前より狭くなりました。同じ平面形状の建物で部屋が狭くなると、部屋は細長くなるのですね。それから、高層化のためでしょうか、外壁は以前より薄く、柱が太くなったように思います。柱が通る教員室は正味の面積が少ないと言ってみたり、引っ越し当日はお互いの部屋を見比べてワイワイ騒ぐという子どもみたいな先生たちでした。

③ 平成25年7月に、海洋技術環境学専攻に新しく「海洋開発利用システム実現学講座」が誕生しました。専攻のホームページから新講座のホームページにアクセスできる(ようになる)ので、詳しくはそちらをご覧いただければと思います。

もともと専攻には、専攻を本務とする教員からなる「海洋利用システム学講座」と「海洋環境創成学講座」、生産技術研究所からの協力講座である「海洋センシング学講座」、(独)海洋研究開発機構(JAMSTEC)との連携講座である「海洋研究開発システム講座」がありました。このたび、造船重機械、海運、エンジニアリング、海事協会、全9社のご厚意で寄付講座として前出の名前の講座が発足し、高木先生、鈴木先生、私がこの講座も兼務して活動を開始しました。この講座ができたことで学生定員が増えるとか、新たに研究室をつくって学生を配属させるというわけではありませんが、海洋エネルギー資源開発に関心のある企業や海外の大学・研究機関と広く連携・協力して、日本の海洋産業が「実展開」することに大学でできることをやっていこうという趣旨の活動を展開していきます。

久しぶりに(平成24年夏)

早いもので、東京大学に着任して3年10ヶ月がたちました。この間に、政権交代というしばらく前には想像もできなかった変事が起こりましたが、それも些事かと思うばかり、東日本大震災、原発事故、全原発の停止(と大飯の再開)といった大事件があり、さすがに大学でも一時は「大学に今できることは何か」という短期的問いかけが学内を席捲しました。その問いかけの行方はそれぞれでしょうし、もとの寝ぐらにもどった人も少なくないと思いますが、将来のあるべき姿の再考とそこへ至る道筋をいかに進むかという長期的課題には、誰もが他人任せにせず、しっかり対峙していく必要があると思います。環境とエネルギーの分野では、原子力への依存度を抑制しつつ、エネルギーとりわけ電力の供給量確保とCO2排出量削減を両立させることが課題です。世界的に供給がひっ迫しつつある資源エネルギーを海洋開発で獲得すること、CCSによって大気へのCO2排出量を削減すること、海洋の再生可能エネルギーの実力を見極め適所で最大限活用すること、外航海運の徹底的な低炭素化を推し進めることなどが、当面の海洋産業に関わる重要テーマであると考えます。また、大きな自然災害や、温暖化による海面上昇・異常気象に備える技術・施策を、海からの観点で考案し確立することも、海洋工学の領域で取り組んでいくべき命題です。個人としては2020~30年頃のあるべき姿を強く意識して社会と連携した活動を行いつつ、2050年のことを思い描いて頑張る学生や若い技術者・研究者を支持していきたいと思います。

挨拶(平成20年秋)

平成20年9月1日付けで、東京大学大学院 新領域創成科学研究科 海洋技術環境学専攻に着任し、海洋産業システム学分野の研究室をスタートさせました。

私は、緊張係留された浮体と係留索の波浪中挙動に関する卒業研究(昭和52年度)を行って以来30年余、大学院、重工メーカーの研究所、独立行政法人研究機関において一貫して海洋技術に関する研究開発・プロジェクトに取り組んできました。ここしばらくの主な対象は、温暖化対策としてのCO2回収貯留 (CO2 Capture & Storage; CCS)、地球深部探査船「ちきゅう」などです。大学という新しい場所で引きつづき海洋技術に関わっていくことになり、今後取り組みテーマをどんどん増やしていきたいと思います。

食糧・資源・エネルギーの世界的な供給不足・価格高騰や温暖化に代表される地球環境問題などの重要課題を解決するために、海に囲まれた我が国では、海からの恩恵をより豊かに、持続的に享受していく創意がこれまで以上に求められています。それが実効性を伴って推進されるには、海洋技術が伝承され、継続的に開発・刷新され、また海洋に通じた人材の活躍の場が広がっていくために、一定以上の規模と活力を有する海洋産業活動が不可欠です。そこで、研究室の活動目標として「我が国の排他的経済水域(EEZ)を基盤とする新海洋産業創成・既存海洋産業リノベーション」を掲げることにしました。活動方針は「海洋のフィー ルドで人類社会に貢献すると信じられるいくつかの産業活動の可能性をポジティブに追求し、その初期市場形成までを視野に入れて海洋技術の統合的応用や事業環境整備に関する研究開発・実践活動を行う」こととします。

研究室に所属する人たち、協力して一緒にやって下さる人たち、応援して下さる人たちが、やりがいを感じ、誇りに思えるように取り組んでいきたいと思います。